肺高血圧症の概要

Overvoew of Palmonary hypertension

肺高血圧症は、肺動脈平均圧が25mmHg以上と定義

肺高血圧症は、肺動脈圧が持続的に上昇した病態で、右心不全や呼吸不全が順次進行する予後不良の疾患です。
原因はさまざまで、ほとんどが難治性です。
肺高血圧症の定義は、2008年のダナポイント会議※1で、「安静時に右心カテーテル検査を用いて実測した肺動脈圧(PAP)の平均値(mean PAP)※2が25mmHg以上の場合」とされています。

※1 米国のダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウム
※2 健常人の安静時mean PAP は14±3mmHg,正常上限は20mmHgと報告されている

CTEPHは、肺高血圧症の臨床分類の1つ

肺高血圧症は、5群に大別されますが、この「CTEPH.jp」で取り上げる慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は、そのうちの第4群に分類されます。

肺高血圧が軽度のうちは、症状が現れにくいことも

肺高血圧症は、自覚症状として、労作時呼吸困難、息切れ、易疲労感、動悸、胸痛、失神、咳嗽、腹部膨満感などがみられます。
しかし、軽度のうちは症状が現れにくく、症状を認めたときには、すでに高度の肺高血圧をきたしていることも少なくありません。
右心不全症状をきたすと、腹部膨満感や体重増加などがみられ、さらに、右心不全が進行すると、肝うっ血所見(肝静脈や肝部下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失)、腹水などが現れます。
また、下肢の深部静脈血栓症を合併する症例では、下肢の腫脹および疼痛が認められます。その他、以下のような肺高血圧症の原因疾患特有の身体所見がみられます。

肺高血圧症でみられる身体所見

肺高血圧症に伴う II音肺動脈成分の亢進
右心負荷に伴う 胸骨拍動
三尖弁閉鎖不全症に伴う 胸骨左縁下部での汎収縮期雑音
(吸気時に増強するRivero-Carvallo徴候を示すこともある)
肺動脈弁閉鎖不全症に伴う 胸骨左縁での拡張早期雑音(Graham Steell雑音)、右心性IV音聴取など
右心不全 頸静脈怒張、右心性III音、肝腫大、下腿浮腫、腹水など
肺高血圧症の原因疾患に伴う アイゼンメンジャー症候群、肺静脈閉塞症、肺疾患でみられるばち指、
各膠原病や肝疾患でみられる諸身体所見、CTEPHでみられる肺動脈の血管雑音など

循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告):肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)より作表

肺高血圧症は、5群に大別

肺高血圧症のダナポイント分類(2008年)※1は、数多くのガイドラインや論文に用いられていましたが、2013年、ニースで開催された第5回肺高血圧症ワールド・シンポジウムでは、これに再度修正が加えられました。
この再改訂版肺高血圧症臨床分類は、日本循環器学会「肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)」に盛り込まれています(表1)。

表1 再改訂版肺高血圧症臨床分類(ニース分類[2013年])

日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版).
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_fukuda_h.pdf(2018年11月閲覧)

※1 米国のダナポイントで開催された第4回ワールド・シンポジウムに踏襲された改訂版肺高血圧症臨床分類

CTEPHは、第4群

この「CTEPH.jp」で取り上げる慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は、第4群に分類されます。
以前は、厚生労働省が指定する治療給付対象疾患として、特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)という名称が用いられていましたが、ダナポイント分類に合わせて名称が変更され、CTEPHに統一されました。

コラム肺高血圧の臨床分類の変遷

1973年:ジュネーブ
  • 原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension:PPH)に関する専門家会議(WHO主催)で、肺高血圧症の臨床分類を提案
1998年:エビアン
  • 第2回PPHワールド・シンポジウム(WHO共催)で、初めて“肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)”という疾患概念が導入され、病因・病態により肺高血圧症例を5群に分類整理
2003年:ベニス
  • 第3回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(NIH:アメリカ国立衛生研究所が後援)で若干の改訂
  • 特に原因となる疾患の存在を指摘することができない例を、“特発性PAH(idiopathic PAH:IPAH)” 、家族歴を持つ例を“家族性PAH”と名称変更
2008年:ダナポイント
  • 第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(ダナポイント会議)で、エビアン分類・ベニス分類を継承しつつ、その後の研究成果を取り入れて改訂
  • “膠原病に伴うPAH”を、“結合組織病に伴うPAH(connective tissue disease-PAH:CTD-PAH)”に名称変更
  • “肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD)および/または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)”を、第1群の亜型(第1’群)に位置づけ
  • “慢性血栓塞栓および/または塞栓症によるPH(PH due to chronic thromboembolic and/or embolic disease)”を、“慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)”に名称変更
2013年:ニース
  • 第5回肺高血圧症ワールド・シンポジウムで、ダナポイント分類に小規模の改訂
  • 新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertention of the newborn:PPHN)が第1群の亜型(第1’’群)に、慢性溶血性貧血が第5群にそれぞれ変更など(表1)

循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告):肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)

第1群:肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)

肺高血圧症として、最も典型的な臨床像を呈する疾患群で、さらに、下記のように分類されています。

  • 1)特発性PAH(idiopathic PAH:IPAH)
    ベニス分類(2003年)※1で、とくに原因となる疾患が明らかでない例を、IPAHと呼称することになりました。
  • 2)遺伝性PAH(heritable PAH:HPAH)
    PAHの中で、唯一、遺伝子異常が確認された疾患群を指します。ダナポイント会議(2008年)※2で、家族性PAHからHPAHに名称変更されました。
  • 3)薬物・毒物誘発性PAH
    わが国での報告は多くはないものの、海外では、食欲抑制剤が発症に関連している症例が報告されています。
  • 4)各種疾患に伴うPAH (associated PAH:APAH)
    • ①結合組織病に伴うPAH(connective tissue disease -PAH:CTD-PAH)
      わが国では、とくに症例数が多いと考えられています。
      欧米では、全身性強皮症(systemic sclerosis; SSc)に伴うPAHが主ですが、わが国では、SScとともに、混合性結合組織病(MCTD)や全身性エリテマトーデス(SLE)の合併率も高いとされ、治療方針を決定するには、原疾患の病態評価を慎重に行うことが重要です。
      エビアン-ベニス分類では“膠原病に伴うPAH”とされていましたが、ダナポイント分類で名称変更されました。
    • ②HIV感染症に伴うPAH
      フランスの報告では、HIV感染症に伴うPAHは、PAH全体の約6%とされている一方、HIV例中のPAHの有病率は約0.5%と推定され、HIV例がPAHを発症する可能性は低くはありません。
    • ③門脈肺高血圧症(portopulmonary hypertension: PoPH)
      海外では肝移植対象例の5%程度に、この肺高血圧症が存在するとされています。 進行した肝疾患の既往の有無に関わらず、門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症のことを指します。
    • ④先天性心疾患に伴うPAH(congenital heart disease - PAH: CHD-PAH)
      CHD-PAHの成人では、25~50%がCHD-PAHの最重症型であるアイゼンメンジャー症候群に至ると概算されています。アイゼンメンジャー症候群例は、肺血管抵抗(PVR)上昇の結果、右左シャントが常態化していて、単なるPAHとは病態が異なることに留意する必要があります。
    • ⑤住血吸虫症に伴うPAH
      臨床像も病理的にもIPAHと類似していると報告されていますが、わが国では、ほとんど報告例はありません。

第1’群 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD) および/または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)

PVODとPCHは肺静脈や毛細血管の異常に伴って肺高血圧症を呈し、臨床像にはPAHとの共通点が多くあります。
また、PCHとPVODは、組織像に多くの類似点があるとされ、同一疾患の異なった表現型とする考え方もあります。

第1”群 新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertention of the newborn: PPHN)

新生児で出生後に肺高血圧が遷延する病態があり、PPHNとよばれています。
ダナポイント分類では、第1群:PAHに含まれていましたが、ニース分類(2013年)※3では、第1群の亜型(第1”群)に細分類されました。

※1 ベニス分類:ベニスで開催された第3回ワールド・シンポジウムで、それまでの肺高血圧症のエビアン分類が改訂された
※2 米国のダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウム
※3 ニース分類:ニースで開催された第5回ワールド・シンポジウムで、ダナポイント分類に小規模な改訂が加えられた

第2群:左心性心疾患に伴う肺高血圧症

肺高血圧症の中で、最も症例数が多いといわれています。
肺高血圧は存在するものの、肺動脈楔入圧も高値を示すため、計算上は肺血管抵抗の著明な上昇はみられない場合が多く、肺血管自体に病変をもつPAHとは基本的に病態が異なります。
左心性心疾患に伴う肺高血圧症に対する治療は、その原疾患に対する治療が優先されます。

第3群:肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、慢性の高地低酸素曝露など種々の肺疾患や低酸素血症に合併する肺高血圧症のグループです。肺実質障害による肺高血圧症では、一般に、高度の肺高血圧は少ないと報告されています。

第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)

器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布ならびに肺循環動態の異常が6か月以上にわたって固定している病態で、慢性肺血栓塞栓において平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例とされています。

第5群:詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症

最近になって肺高血圧症を併発することが知られてきた全身性疾患(サルコイドーシスなど)、代謝性疾患(糖原病Ⅰa型など)、その他(腫瘍、人工透析など)に分類されています。
ニース分類では、慢性溶血性貧血が第1群からこの群に移されました。

References
・日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
・日本循環器学会. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
・難病情報センターホームページ>>診断・治療指針(医療従事者向け)>>呼吸器系疾患調査研究班(難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究)作成. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(指定難病88)(2018年11月閲覧)

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