CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)の定義

Overvoew of CTEPH

CTEPHは、器質化した血栓による肺高血圧症

CTEPH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:慢性血栓塞栓性肺高血圧症)は、器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布ならびに肺循環動態の異常が6か月以上にわたって固定している病態で、慢性肺血栓塞栓症において平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例とされています。

肺動脈平均圧が30mmHgを超える場合、肺高血圧は時間経過とともに悪化することが多く、その結果、右心不全をきたすこともあり、一般には予後不良です。

肺高血圧症の臨床分類の第4群

CTEPHは、肺高血圧症の5つの臨床分類の中で、第4群に分類されます。

以前は、厚生労働省が指定する治療給付対象疾患として特発性慢性肺血栓塞栓症-肺高血圧型(CTE-PH)と呼ばれていましたが、2009年10月にダナポイント分類※1に合わせてCTEPHに名称が変更されました。

※1 米国のダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウムで検討された改訂版肺高血圧症臨床分類

症状がないまま進行する潜伏型も

CTEPHは、急性肺血栓塞栓症の既往の有無によって、急性反復型と潜伏型に区別されます。

  • 急性反復型:過去に急性肺血栓塞栓症を示唆する症状が認められるもの
  • 潜伏型:明らかな症状のないまま病態の進行がみられる

コラムCTEPHの名称変更と特定疾患認定の変遷

CTEPHは、厚生労働省が定める難治性疾患克服研究事業の治療給付対象疾患の1つです。以下のような経過をたどっています。

1978年
(昭和53年)
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」発足
1998年
(昭和63年)
“特発性慢性肺血栓塞栓症-肺高血圧型(CTE-PH)”が、難治性疾患克服研究事業の治療給付対象疾患に認定
[2008年:ダナポイント分類] ベニス分類(2003年)※2の“慢性血栓塞栓症and/or塞栓症によるPH(PH due to chronic thromboembolic and/or embolic disease)”を、“慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)”に名称変更
2009年
(平成21年)
ダナポイント分類を受け、「呼吸不全に関する調査研究班」は、CTE-PHをCTEPHに名称変更、治療給付対象疾患の認定基準を改訂

※2 ベニスで開催された第3回肺高血圧症ワールド・シンポジウムで、それまでのエビアン分類が改訂された

増加するCTEPHの患者数(特定疾患医療受給者証所持者数)

CTEPH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:慢性血栓塞栓性肺高血圧症)は、難病として厚生労働省の定める特定疾患であり、診断の手引きに従って診断して申請すれば、特定医療費(指定難病)の受給が可能です。
患者数を正確に把握することは困難ですが、CTEPHの特定医療費(指定難病)受給者証所持者数をみると、2015年度は2,829名、2016年度は3,200名、2017年度では3,439名と増加しています※3,4
この件数は、肺高血圧症の中で最も典型的な臨床像を呈するとされる、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)でも増加しています。

図1 CTEPHとPAHの特定医療費(指定難病)受給者証所持者数

※3 公益財団法人 難病医学研究財団 難病情報センター 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数
※4 政府統計の総合窓口(e-Stat) 衛生行政報告例/平成29年度衛生行政報告例 統計表 年度報より作図

わが国では女性に多い

2011年の日本のCTEPH患者集計データでは、海外に比べて女性が多いことが報告されています。

一方、海外では性差は認められていません。

コラム急性肺血栓塞栓症の疫学

急性肺血栓塞栓症の発生数は、米国では、50~ 60万人/年で、急性期の生存症例の0.1%~ 0.5%がCTEPHへ移行すると推定されています。
しかし最近、急性例の3.8%が慢性化したとの報告があり、急性肺血栓塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭に置くことが重要と指摘されています。

急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生率は、わが国では欧米に比べて少ないと考えられています。病理解剖を基礎とした報告では、急性肺血栓塞栓症の発生率は米国の約1/10でした。
また、わが国の急性肺血栓塞栓症の疫学調査での発症数は、7,864人(2006年)で、10年間で2.25倍に増加しています。これを人口100万人あたりに換算すると62人で、米国の約1/8です。

コラム深部静脈血栓症の疫学

深部静脈血栓症の診断、治療でも、常に肺血栓塞栓症を念頭に置くことが重要と考えられます。
米国の深部静脈血栓症の発生数は、116,000から250,000例/年、1976年から2000年の論文解析をすると、発生率は、10万人あたり50例/年です。
わが国では、1997年に日本静脈学会静脈疾患サーベイ委員会から、506例/年と報告されました。
その後、2006年には、厚生労働省血液凝固異常症の研究における短期アンケート調査で、14,674例/年と推計され、この発生率は10万人あたり12例/年となります。
近年、わが国の深部静脈血栓症の発生率は、欧米の約1/4まで増加したと考えられます。

成因は明らかでなく、欧米では急性肺血栓塞栓症例からの移行を想定

CTEPH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:慢性血栓塞栓性肺高血圧症)の発症機序は、いまだ不明確ですが、欧米では、急性肺血栓塞栓症からの移行を想定しています。

米国では、急性肺血栓塞栓症の発生数が50~ 60万人/年で、そのうち急性期の生存症例の0.1%~ 0.5%がCTEPHへ移行すると推定されていました。

しかし、その後、急性例の3.8%が慢性化したと報告され、急性肺血栓塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭に置くことが重要と考えられています。

欧米と異なる発症機序が存在?

さらに、深部静脈血栓症では頻度が低いとされるHLA-B*5201※5やHLA-DPB1*0202と関連する症例が、国内で報告されています。これらのHLAは、欧米では極めて頻度の少ないタイプです。
その他、海外では性差がないのに、日本では女性に多いことも合わせると、わが国では、欧米と異なった発症機序を持つ症例があることが示唆されます。

※4 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究」報告より

肺血管閉塞の程度が肺高血圧の要因として重要

CTEPHでは、肺血管閉塞の程度が肺高血圧の要因として重要で、多くの症例は、40%以上の肺血管閉塞を認めるとされています。

また、血栓塞栓の反復と肺動脈内での血栓の進展が病状の悪化に関与していることも考えられ、以下のようなsmall vessel diseaseの概念も病態を複雑化していると考えられます。

① PAHでみられるような亜区域レベルの弾性動脈での血栓性閉塞

② 血栓を認めない部位の、増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変

③ 血栓によって閉塞した部位より遠位で、気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変

基礎疾患があるとは限らない

また、CTEPHの基礎疾患として、血液凝固異常14.6%(そのうち抗リン脂質抗体症候群75%)、心疾患12.8%、悪性腫瘍9.8%などが認められますが、43.9%の症例では明らかな基礎疾患は認められませんでした。

不溶性フィブリンが慢性化の一因?

米国で、CTEPHの患者さんの血中に、溶けにくいフィブリンがあると報告されています。慢性化の一因として注目されています。

References
・日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
・日本循環器学会. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
・日本肺高血圧・肺循環学会. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン
・難病情報センターホームページ>>診断・治療指針(医療従事者向け)>>呼吸器系疾患調査研究班(難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究)作成. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(指定難病88)(2018年11月閲覧)

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