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コロナ禍における治療実態と安心して治療継続できる工夫について考える

肺高血圧症患者さんと医師による座談会

コロナ禍における治療実態と
安心して治療継続できる工夫について考える

~緊急時にどこに支援を求めれば良いか~

肺高血圧症患者さんと医師による座談会第6回

新型コロナウイルス感染症(コロナ)は、私たちの日常生活を激変させ、さらには肺高血圧症患者さんにとって欠かせない医療体制にも大きな影響を与えています。
今回は、NPO法人 PAHの会 理事長の村上さんの司会のもと、患者さん代表として伊豆みどりさん、外丸幸江さん、医師代表として群馬大学の髙間典明先生にお集まりいただき、コロナ禍における肺高血圧症の診療実態と、心境の変化、そしてこれからのコロナとの向き合い方などについてお話しいただきました。今後、不測の事態が起こった場合にも対応できるようなヒントになれば幸いです。

※コロナ渦での座談会のため、現在の状況とは異なる表現が含まれております。

(2021年10月7日開催)

司会:

  • 村上 紀子さん
    NPO法人 PAHの会 理事長。20年近くにわたり患者会に携わる。

パネリスト:

  • 群馬大学医学部附属病院 循環器内科 准教授 髙間 典明先生
    心臓病の治療で有名な小倉記念病院でインターベンション(血管内治療)の腕を磨き、アメリカ留学を経て群馬大学に赴任。現在は群馬県の肺高血圧診療を担っている。
  • PAH患者 伊豆 みどりさん
    2015年にPAHと診断される。持続静注薬と内服薬の治療を続けている。主に群馬大学医学部附属病院に通院している患者さんたちで設立した「肺高血圧症患者会よつ葉の会」会長。PAHの会 会員。
  • CTEPH患者 外丸 幸江さん
    2016年にCTEPHと診断される。群馬大学でBPA(バルーン肺動脈形成術)を受け、酸素吸入療法から解放されてお薬による治療を続けている。肺高血圧症患者会よつ葉の会 会員。


コロナ禍における生活と診療の変化

コロナ禍での日常生活
座談会参加者

村上さん:昨年(2020年)の3月ごろから世界的なパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(コロナ)は、日本でも緊急事態宣言が出されるなど、私たちの生活を激変させました。伊豆さん、外丸さん、このコロナによってお二人の日常生活はどのように変わりましたでしょうか?

伊豆さん:外国の話かと思っていたら、あっという間に日本に入ってきて、ここ群馬県でも感染者があらわれて恐怖感を覚えました。それまでは趣味のミュージカル観劇のために月に数回は東京へ行っていましたが全く行けなくなり、「肺高血圧症患者会よつ葉の会」の方も活動休止を余儀なくされています。

外丸さん:今も通院以外で外出するのは生活必需品を買いに行く時くらいです。お店に入る時は必ずアルコール消毒をしています。以前は、公民館などで地域の人たちと楽しく会話ができたのですが、今は一切できなくなっています。


医療体制の変化

村上さん:ありがとうございました。それでは髙間先生、コロナ禍で、肺高血圧症の診療体制や患者さんの受診行動はどのように変化しましたでしょうか? 肺高血圧症の患者さんは、肺の基礎疾患をお持ちということで特にコロナにナイーブになられていると思いますし、一方で、重い病気ですから検査や治療を先延ばしにするということもできません。

座談会参加者

髙間先生:コロナ禍で必要な検査や治療ができなくなったというようなことはなく、従来通りの診療を続けていますが、例えば発熱が確認されれば検査ができない、入院ができないという状況にはなっています。マスクを外して対面で行うような呼吸の検査は必要最小限としています。入院についても、コロナ患者さんの受け入れのためにベッドが減らされており、逆に患者さんの方が入院を躊躇されることもあります。状態が安定している患者さんから受診の間隔を延ばして欲しいとの相談を受けた時は、きちんとお薬を服用すること、体調の変化を感じたらすぐに連絡することをお願いしながらご希望に応えています。そのような中で、今日いらっしゃっているお二人を含め、当院の肺高血圧症の患者さんはしっかりと自己管理をされており、コロナで入院された方は一人もいません。私たち医師も感染しないように細心の注意を払っています。もし感染してしまえば2週間も病院に出ることができず診療が滞ってしまいます。

村上さん:少なくとも私は、ここまで肺高血圧症の方がコロナで入院された、亡くなられたなどといった話は聞いておらず、本当に皆さん、しっかりと感染対策をされておられるのだと思います。


患者さんの立場からみた診療上の変化
座談会参加者

村上さん:それでは次に、患者さんお二人にもコロナ禍による診療の変化について伺っていきたいと思います。

伊豆さん:私の場合は、普段から患者さんが少なくなる午後に診療していただいており、コロナ禍で診療時間が短くなったというようなことはありません。病院に入る前の管理体制がかなり厳しくなったことで、病院の患者を守ろうという強い意気込みを感じました。私自身も、病院内ではできるだけ人が少ない場所を選んで待ち時間を過ごしています。知り合いに会っても、お互い無言で手を振って挨拶を交わす程度です。

外丸さん:自分の診療の話ではないのですが、去年、親しくしている人が入院した時に、思うようにお見舞いに行けなかったことが辛かったですね。

村上さん:肺高血圧症の患者さんではご自身が検査のために入院されることもありますよね。

伊豆さん:私は去年(2020年)の最初の緊急事態宣言前に検査入院しています。入院中に緊急事態宣言が出されましたので、衣服は自分で病棟の患者用洗濯機で洗濯し、どうしても必要なものだけ家族に届けてもらいました。

髙間先生:当時は許可があれば面会できましたが、今は一切できなくなっています。

伊豆さん:看護師さんたちが感染予防対策を徹底されており、コンビニの店員さんが病棟まで商品を売りに来てくれました。

外丸さん:私はコロナ禍の中での入院はありませんが、面会が一切できないというのは精神的に辛いと思います。いつも入院中は同じ病棟の人と仲良くなっておしゃべりをして過ごしていますがそれもできないということですよね。


患者さんの心境の変化

村上さん:そのように診療体制や病院での過ごし方が変わってきた中で、何か心境の変化はありましたか?

伊豆さん:診療の終わりに、いつも先生からコロナに気を付けるように言っていただきますので、やはりコロナは怖いんだなということで、絶対にかからないようにできる限りの予防対策をしています。食品宅配サービスで商品が届いたら、届いたものをすべてアルコールで消毒しています。そうしないと安心できないのです。

外丸さん:家に閉じこもっていると気分が落ち込みがちで運動不足にもなってしまうので、1日6千歩を目標に散歩をしたり、部屋の中でラジオ体操をしたりするようにしています。

髙間先生:皆さんそれぞれ工夫されていらっしゃいますよね。マスクや手洗いを含めて、感染予防対策を継続していただければ、肺高血圧症だからといって、必要以上に怖がる必要はないと思います。


医師と患者さんのつながりの変化

患者さんの立場から

村上さん:医師とのつながり、関係性において何か変化はありましたか?

伊豆さん:幸いなことに先生との関係に変わりはありません。むしろ、いつもコロナにかからないようにと声をかけてくださっていて、本当に私たちのことを親身に思ってくださっているのだなと信頼感が増しています。

外丸さん:そうですね。髙間先生は、私たちがコロナにかかると余計に大変なので特に気を付けるようにと言ってくださっています。そのお気持ちに応えるために、感染予防対策は抜かりなくやっています。

髙間先生:私はコロナで入院している重症患者さんを実際に受け持ちしていますから、コロナの怖さについて人一倍分かっているつもりです。ですから患者さんにはお会いするたびに気を付けるように言っています。

伊豆さん:髙間先生には、このコロナ禍で、以前と変わらない診療環境、雰囲気を私たちに提供してくださっていることに本当に感謝しています。先生には精神的に大きな負担がかかっているものと思いますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

外丸さん:くれぐれも、先生も身体にお気を付けください。


医師の立場から

村上さん:医師としてのお立場で、患者さんとのつながりに変化を感じておられますか?

髙間先生:いつも診療させていただいている方たちとの関係性に変化はないと思っています。一点、コロナ禍で肺高血圧症患者さんの発見が遅れてしまうことを懸念しています。実際、今年(2021年)に入って、立て続けに3人の方が息切れを訴えて受診され、最終的に重症の肺動脈性肺高血圧症と診断されています。状況が緊迫していた昨年(2020年)は受診を控えておられたのでしょう。今も受診を控えている方がいらっしゃるのではないかと心配しています。


オンライン診療の可能性
座談会参加者

村上さん:髙間先生、感染拡大に伴い、患者さんの受診状況は都道府県によって異なるかと思います。感染拡大の影響の大きい都市部では、患者さんが通院を怖がられて、オンラインでの診療を求める声も多かったと聞いています。オンライン診療についてはどのようにお考えでしょうか?

髙間先生:オンライン診療にはメリットとデメリットがあると考えています。ちょっと咳をしただけで振り返られるような今の状況で、外出をせずに診療が受けられることは安心感につながるよい面だと思います。一方で、画面越しでは分からない状態の変化が見落とされてしまわないかと心配です。以前、市民公開講座でお話しした時に、参加してくださっていた方の中に肺高血圧症の患者さんが見つかったことがあります。やはり、実際にお会いして様子が見られるということは早期の診断のためにも重要なことだと思っています。

村上さん:オンライン診療について、お二人の意見も伺えますか。

伊豆さん:オンライン診療というのがあると聞いて、最初は私もそうして欲しいと思いましたが、自分が24時間の静注薬による治療も受けていることを考えると、やはり、直に先生にお会いして、きちんと検査も受けた上で状態を確認していただきたいという思いが勝りました。

外丸さん:私も、先生と対面して、全身を見ながら診療していただかないと安心できません。

村上さん:やはり対面診療が安心ですよね。群馬県では比較的感染者が少なく、自家用車を使って安全に通院することができるという背景もあるのだと思います。


患者さん同士のつながりの変化

PAHの会の取り組み

村上さん:次に、患者さん同士のつながりの変化に話題を移していきたいと思います。私どものPAHの会も、ここ2年はすべてオンラインでセミナーや交流会を実施しています。2021年11月にはオンラインでの全国大会も予定しています。

伊豆さん:PAHの会のオンラインセミナーでは、皆さん積極的に発言されていて、以前、全国大会で実際にお会いしてもお話ししていなかった方々と交流することができました。そしてその場で得られた情報はこのコロナ禍を乗り越えるために本当に参考になりました。


よつ葉の会の取り組み

村上さん:よつ葉の会の方はいかがですか?

伊豆さん:よつ葉の会には、パソコンが得意でない方、週末に仕事という方もいてオンラインであっても一堂に集まることは難しく、メッセージアプリを使って情報交換や交流を行っています。メッセージアプリができないという方にはこまめに電話をかけてつながりを保っています。以前は、定期的に茶話会やランチ会を実施していました。昨年(2020年)は、当初、病院内で患者会サロンという肺高血圧症患者の交流を図る会も企画していました。早くそのような対面での集まりができるようになって欲しいですが、コロナ禍がまだ続くようなら今後はオンラインでの集まりも考えていくつもりです。

外丸さん:私の世代はオンラインと言われても何か構えてしまいますが、今度、伊豆さんに操作方法を教えていただく予定になっています。メッセージアプリで同じ病気の人たちとつながっていられることはこの病気を抱えて生きていく上で励みになっています。安心感とでも言うんでしょうか。

村上さん:そのような交流手段がなければ患者さんたちがそれぞれ孤立してしまいますよね。


メッセージアプリを使ったつながり

髙間先生:入院している20代の患者さんから、同じ病気を持つ人と話したいと相談され、伊豆さんを紹介させていただきました。コロナ禍では入院中に面会を制限されており、気軽に入院患者さん同士で会話をすることも難しかったため、より孤独に感じていらしたのでしょう。

伊豆さん:そうですね。メッセージアプリを通してお話ししています。

髙間先生:その患者さんはこの病気の苦しみを初めて共有できたと涙を流して喜んでおられました。肺高血圧症は希少疾患ですから、これまでは入院中に患者さん同士で話をすることで病気についての理解を深めるといったようなことがあったのだと思います。

外丸さん:この病気のことは家族にさえ理解してもらうのが難しいですからね。私も、伊豆さんからメッセージをいただくと本当にうれしいです。

髙間先生いつまでもコロナを責めていてもしょうがないですから、そのような新しいツールを使ってぜひ交流を続けていただきたいですね。そしていずれはまた対面で集まれるようになることを願っています。


コロナ禍で学んだこと、今後の緊急時に備えて

今後の展望
座談会参加者

村上さん:それでは最後に、今回のコロナ禍から学んだことを今後にどのように活かしていくかについて話し合っていきたいと思います。まずは髙間先生、コロナは今後、どのようになっていくとお考えでしょうか?

髙間先生:一般論として、これからもこの新型コロナウイルス感染症は残っていくのだと思います。ただし、私たち人類もそれに対抗する武器をどんどん手に入れていきますから、これまでのような危機的な状況が続いていくということはないと思っています。

伊豆さん:昔、インフルエンザウイルスがパンデミックを起こした時にも、さまざまな対策が取られ、そしてよい治療薬が開発されてそれを乗り越えてきたと聞いています。医療の進歩に期待しつつ、安心して生活できる日々が早く訪れることを願っています。


コロナ禍で学んだこと

村上さん:今回のコロナ禍から学ばれたことを教えてください。

伊豆さん:それまで当然のようにできていた人と会って話すということができなくなる中で、メールやメッセージアプリによる文字のやりとりだけではなく、電話で人の声が聞きたいと強く感じたことを覚えておきたいと思います。実際に声でやりとりすることで、お互いの存在をより深く確認し合うことができ、安心感が得られたのだと思っています。

外丸さん:そうですよね、人と会って話をすることが当たり前でなくなり、メッセージアプリを使って他の方とつながることが増えています。パソコン教室に通い始めたので、パソコンが使えるようになったら、オンラインでの会にも参加したいと思います。


コロナ禍を乗り越えていくために
座談会参加者

村上さん:ぜひ髙間先生からコロナ禍を乗り越えていくためのアドバイスをいただけますか。

髙間先生:コロナは大変な病気ですが、必要以上に怖がる必要はありません。皆さんしっかりと感染予防対策ができていますから、今後も、マスクや手洗いを含めてそれを継続していただきたいと思います。そしてワクチンです。最近、コロナで重症化している方はワクチンを打っていない方が多いのです。できることをやった上で、肺高血圧症のお薬をきちんと服用していっていただくことが大切です。

村上さん:今回のコロナ問題も含め、肺高血圧症の患者さんは緊急時にどこに支援を求めればよいのでしょうか。

髙間先生:私が診ている患者さんにはすぐに私にご連絡くださいと言ってあります。緊急時に備えて連絡が取れるようにしていますが、患者さん方には節度を持って使っていただいており、連絡をいただくのは本当に緊急の場合に限られています。

村上さん:今日、お話を伺っていて、髙間先生と患者さんの間でしっかりと信頼関係ができていることに感動しています。やはり、普段から医師と患者さんの間で信頼関係を築いておくことが緊急時にも役に立ってくるのだろうと感じました。

髙間先生:今回のコロナ禍で学べたことは、このように突然、私たちの生活が激変するような事態が起こっても、患者と医師がきちんとつながっていれば、何らかの手段で必要な診療が続けられるということです。私たちの想いが患者さんに伝わり、患者さんがそれに応えてくれる、そのような信頼関係を今後もたくさん築いていきたいと思っています。

村上さん:本日はありがとうございました。

座談会参加者